抱き寄せて、キスをして《短編》
私は頭を下げてオフィスを出た。

……オレンジジュースでも飲むか。

私は財布だけを手に、社員食堂のある5階へと向かった。

エレベーターの前に立つと、先日新太と鉢合わせたのを思い出したけど、今回は大丈夫だった。

残念なような、会わずに良かったと思う安堵感。

……変な感じだ。

5階は、フロア全体が社食で、壁沿いには自販機がズラリと並んでいる。

私はお目当ての、100パーセントジュースの自販機の前に立った。

小銭を入れて番号を押すと、静かにペットボトルが一本、透明な自販機の中を音もなく通過していく。

「はあ」
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