抱き寄せて、キスをして《短編》
私はペットボトルを取り出しながらため息をついて、踵を返した。

さあ、戻ろ。

その時、真後ろにいた誰かとぶつかりそうになって、慌てて足を止めた。

「失礼しました」

私は素早く謝り、頭を下げた。

ん?

足元で男性だと理解したが、フワリと漂ったシトラスの香りに、私は思わず顔を上げた。

この香りは。

「あ……新太……?」

新太だった。

嘘……。

目の前の新太は、まるで変わっていた。

ボサボサとして、分け目の無かった髪は短くお洒落にカットされ、いつもの縁なしの眼鏡はなかった。
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