抱き寄せて、キスをして《短編》
私はそっとインターホンを鳴らした。

『はい』

「新太、私」

『……なに?』

抑揚のない新太の声が、ぐさりと胸に刺さる。

「話がしたいの」

『……丁度出掛けるところだったから……降りるから待ってて』

少し息をついてそう言った新太の声が途切れ、私は両手を握りしめた。

新太は、仲直りしてくれるだろうか。

胸が痛くて苦しくて体が震えそうだった。

新太はすぐに姿を現した。

服装は今までと変わりなかったけれど、今風の髪型や、眼鏡をしていない顔は、私の知らない新太みたいで、何だか凄く遠くに感じた。
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