抱き寄せて、キスをして《短編》
新太は私をちらりと見ると、マンションの脇の花壇のブロックに腰を下ろした。

「なに」

冷たい声にくじけそうになる。

私はカラカラになって、痛く感じる喉を必死で押し開いた。

「新太と仲直りがしたい。さっき、加奈ちゃんが来たの。新太のデッサンをもらった」

「あれは、駄作だ。捨てといて」

その言葉が私を拒絶しているようで、思わず俯いた。

新太が大きく息をつく。

「話はそれだけ?」

全身に氷水をかけられたように体が冷たくなって、私は両手をきつく握った。

新太は私から眼をそらしたまま、静かな声で言った。
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