抱き寄せて、キスをして《短編》
え、獲物か、私。

加奈ちゃんは尚も続けた。

「そして、登場するのが小道具です!新兄ちゃんの家でアンナ先輩のデッサンを見つけた時は、これだ!と叫びました」

叫んだのかよ。

加奈ちゃんは更に続ける。

「で、そのデッサンを涙ながらに先輩に渡すと、一気にクライマックスに近づきます」

私は、冷や汗の出る思いで加奈ちゃんを見つめた。

「か、加奈ちゃん、あの時の涙って、もしかして……」

新太も思わず串を持つ手を止めた。

加奈ちゃんは私たちの視線を受けながらニッコリ笑った。

「やだなあ、二人とも!あの涙が嘘だとか思ってるんですか?
……それは企業秘密ですが、私、演劇部でした」
< 98 / 108 >

この作品をシェア

pagetop