イクメン作家と恋心。初期版2巻(修正済み)

「浜野に誕生日の事を聞いていたし
アイツの事だ。
お前に何か入れ知恵をしたと思い
電話で無理やり吐かせた。
まさか、ここでやるとはな」

そう話す先生は、やはり切なそうだった。

「あの……ここに嫌な思い出でも……?」

もしそうなら悪い事をしてしまったわ。

「ここは、沙織にプロポーズした場所だ」

「えっ……?」

心配がドクッと大きに高鳴った。
まさかの言葉に動揺してしまう。

「アイツのお腹に睦月が居ると分かり
駆け落ちをした。
俺は、大学を辞めてバイトをしながら
小説家を目指していた。
苦労させるのが分かっていたから
せめてちゃんとした形でプロポーズするために
ここに来たんだ。
海津に頼み……今日みたいにな」

先生……。

じゃあ私は、先生と同じ事をしていたってこと?
だとしたら……私。

「あ、あの……すみませんでした!!
私…そこまで知らなくて。
余計に先生を苦しめる事になってしまって
あの本当に申し訳ありませんでした」

慌てて立ち上がり頭を下げた。

私の馬鹿。

なんで、そこもちゃんと
リサーチしておかなかったのよ!?ってか
浜野さんも教えてくれてもよかったのに。

すると先生は、

「謝る必要はない。
いい機会だったのかも知れんな」

「えっ?」

先生の方を見ると怒っていなかった。
むしろ少し柔らかい表情をしているように見えた。

先生は、夜景の方を見ながら

「こうやってアイツと来た場所に再確認して
分かる事もある。
けじめをつけるには、大切な事だったのかもな」

思い出すように呟いた。

「先生……」

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