ためいきのセレナーデ

缶コーヒー

私が付き合う男は、勉強以外しなかったり、何かしら健康的な育てられ方をしなかったせいで、性格に重大な問題を抱えている事が多く、私の聖母マリアのような愛し方に引かれ、導かれる男が多い。

カーチェイスで触れた当時大学講師(20代で助教授になったので今は教授)は、月2回位も会えなかったから、帰る頃を見計らってたまにアパート下で待っていた。

その日はザックリ編みの黒のVネックのセーターを素肌に着て、お揃いのミニスカートにパンティ。
素肌にパンプスと言う服だった。

晩秋だったのか深夜冷え込んで来て、アパートの向いの縁石に腰かけ足を投げ出し、震えていた。

すごく寒かった。

下の部屋の一番奥から住人が出てきた。

さりげないふりでいたけれどドキドキしていた。

自販機から缶コーヒーみたいな物を買ったようだった。

そして私の横を通り過ぎる時、

『これよかったら飲んで』

と、それを私に握らせてくれた。

どうみても大学生でかなり私より下だったけど、私はかなり若く見られるので年上かな?位に思われていたと思う。

だからタメ口だったんだろう。

私は驚いたけど、

「ありがとう」

と言うと笑顔でその子は部屋に消えて行った。

彼氏が性格に大きな欠陥があって泣かされる事が多かっただけに、その缶コーヒーはとても暖かくて優しかった。

私は胸が熱くなり、ほんの少し目をうるませて、熱い缶コーヒーを頬にあて、両手で包んだり、胸に押し当てたりして、缶コーヒーがぬるくなるまで体を暖めた。

それからしみじみ飲んだ。

胸の中がポカポカ暖かくなるのがわかった。

人はこんなに優しいんだと教えてくれたあの男子学生、今幸せであるといい。

もう会えないけど何度でも何度でもお礼をいいたい。

酷い目にあってばかりで誰も信じられず、幸せとも縁がなかった捨て猫みたいな私に差し出してくれたあの手、缶コーヒーを忘れない。

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