〜愛が届かない〜
届かない想いに見切りをつける時

上半身を起こし、枕を挟んでベッドの背もたれに寄りかかる男。
彼が吸っているタバコから甘い香りが漂う。

初めて抱きしめられた時も
初めてキスした時も
この香りが私を虜にした。

私のつける香水と合わさると甘い香りが別の香りに変わる…

それは媚薬に変化する。

脳細胞を麻痺させて彼以外何も考えられなくなる頃…

彼の声が

かえで…

と脳内に甘く響きわたる…

そして…
今日も私は…本能のまま彼と甘く淫らな時間を過ごした。


彼にとって私は…セフレ
彼の住んでいる家も知らなければ、彼女がいるのかさえも知らない。

嘘でもいいのに…
愛の言葉なんて…1度もなかった。

私がどんなに好きになっても…変わらない関係。

もう…
終わりにしよう。

ベッドから出て彼に背を向けた私は、床に落ちている服を着て鞄を拾うと、そのままホテルのドアノブに手をかけた。

その間…
彼は何の言葉も発しない。

「もう、電話もメールもしないで……さようなら」

溢れる涙を溜め
精一杯の強がりを言う。

「…楽しかったわ」

そして…ガチャンと金属音が響いた。
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