〜愛が届かない〜
親切に噛んだファスナーを外して、下まで下ろしてくれる。
そこまでは、なんとなくするだろうと想像できた。
急に、胸の圧迫がなくなると同時にワンピースがブラシャーと一緒に床に落ちていく。
えっ…
突然のことに胸を両手で隠すのに精一杯。
「な、なにするの?」
「きれいな背中が見えたから脱がせたくなって…」
そういい、指はショーツにかかりお尻の引っ掛かりがなくなればスルリと足を滑り落ちていく。
してやったり顏の男がガラスに映る。
「…変態」
と叫んで露天風呂に走って体を湯船に隠すのがいっぱいいっぱい。
今までの男達と違うあいつに翻弄されっぱなしで、ドキドキして止まらない。
チャポンと背後で湯船に入る男の音。
胸に手を当て、鼓動を鎮めようとするも男は次々と手を打ってくる。
「こっちこいよ」
その声とともに腰を持ち上げられ、あぐらをかく男の上に横抱きにされる。
「……恥ずかしいんだけど…」
こんな場所で
湯船の中で
横抱きなんて…恋人同士がすることだと思う。
「そう…⁈」
逃げていかないように肩から男の手が肌を滑り脇腹を撫でているその一方で、もう一つの手は持ってきた箱から器用に一本取ると火をつけてタバコを吸っている。
煙を吐く時には空を見上げる男…そんな男の横顔に見惚れてしまう。
そんな動作をじっと見つめていた私に気づいた男は、私の頭を撫で微笑む。
一緒に持ってきたいた灰皿に吸っていたタバコを押しつけ、煙を吐くと唇に触れるキス。
先ほどとは違い熱く甘いキスが男から降り注ぐ。開いた唇に甘い吐息が入り、舌先が歯列をなぞるとゾクッとする背筋。
胸をもみほぐされ、のけ反る首すじに唇が落ちてくる。
「はぁんっ……やぁ、んっ……あっ」
「いい声だ…もっと聞かせろ…俺の前では、本当の自分を出せよ」
胸にある男の頭を抱え、私は男に堕ちていく。
星が綺麗な夜空の下で、湯船の中で…
ベッドの上で…何度も男に組み敷かれ女の喜びを教えてくれる。
自分さえよければいいと自己満足する男達と違い、私の身体を知り尽くしていく男。
一夜だけの関係
そう思っていたのに、恋人のように優しく抱くあいつを好きになってしまった。
やっぱり、近づくべきじゃなかった。
心も体もこの男から離れられない。
「楓」
私の名を呼ぶ男の声が頭上から響く。
「また、会いたくなったら連絡するからお前の連絡先教えて…」