〜愛が届かない〜
「うん…かっこいいけど…始めは軽薄そうな男って思ってた」
「楓の好きになるタイプは、彼女に一途な人だもんね。報われない恋よね」
苦笑いする同僚。
「そうなのよ。なのに、その軽薄そうな男が優しくて恋人のように抱いてくれたの」
「で、恋におちたのね」
「でも、連絡するって言ってから1度もないし、やっぱり一回限りだったのかなぁ」
「職場知ってるなら行ってみれば⁈」
「出来たらしてるわよ」
「そうだった。あんたは見かけと違ってそういう子だったわ」
どうせ私は、男に媚びるように見えて本気の相手には意気地無しですよ。
メイクを直し終わり、男にどう返事するのか答えも出ないままトイレを出るとグイッと腕が引っ張られる。
「他の男に媚びていて楽しいか?」
低く聞き覚えのある声が背後でする。
振り向かなくてもわかる…会いたかった彼の声だ。
会えてうれしい。
だけど、そんな素振りを見せたくない。
「お久しぶりです。私のこと覚えていてくれたんですね」
可愛くないことを言ってしまう。
「そんな嫌味を言わせたい訳じゃない。…楓のお友達⁈」
逃がさないと腕を掴んだまま、同僚に笑顔で視線を移す溝口さん。
「あ、はい」
「悪いけど、連れて帰るから外に楓の荷物持ってきてくれないかな」
「はい…持ってきます」
同僚は、はにかんですぐに取りに行ってしまった。
気まずい沈黙のまま腕を掴まれ外に出ると、すぐに荷物を持った同僚がやってきて耳打ちで『がんばんなさいよ』と囁いた。
そして腕を掴まれた私を見送り「またね〜」と手を振り楽しんでいる。
こっちは、全然楽しくない。
「離して…」
「……」
「…どこ行くの?」
返事もしてくれない男は、近くのラブホに入っていこうとする。
入り口で足を止め、手を振り解こうと踏ん張る私。
「……かえで、来いよ」
振り向きざまに見せる男の色香に抵抗するのを止め、彼の胸に飛び込んでいた。
ホテルの1室に入るとドアが閉まると同時に、荒々しいキスが私を翻弄する。
壁に背と頭を打ち付け、一歩、二歩と後ずさり着ているブラウスをたくし上げられ、スカートのファスナーを下ろされベッドの上に倒れる。
ネクタイを緩め覆い被さり、首筋を這う男の唇が命令する。
「お前って男に媚びるような性格じゃないだろう⁈もう、2度とあんな真似するな」
私の身体を知り尽くした男に何度も堕とされ、その度に甘い香りで目覚め、髪に香りが移るまで私は抱かれた。