〜愛が届かない〜
海沿いにある大きな水族館
駐車場から結構な距離があり、水族館と言ったことをちょっと後悔した私に手を伸ばして恋人繋ぎをしてくれる。
なんだか嬉しくて…
目頭が熱くなる。
「…どうした⁈ 」
「ううん…なんでもない。イルカ見に行こう」
溝口さんを引っ張るように前を歩いた。
彼がどんな顔をしていたかなんて知らずに…無理して明るく振る舞う。
入り口でチケットを購入し、順番に水槽を巡る。大きな大きな1枚ガラスの水槽には海にいる魚達がいる。群れを作る魚群にゆったりと泳ぐ大きな魚、水底には動く気配がわからない甲殻類
色とりどりの魚達に
「……きれい」
ガラスに手をついて食い入るように時間を忘れて見ていた。
その横で溝口さんはただ微笑んでいたけど…
「……イルカ見たいんだろう。もうすぐイルカショーが始まるぞ」
「うん」
ーーーー
ーー
6頭のイルカがジャンプして飛んだり回ったり、ボールを蹴り上げたりして大きな水しぶきが飛ぶ。
プールに入ったトレーナーを水面の底から鼻先で押し上げ大ジャンプに大きな拍手…観客席からあがる。
私も興奮して手を叩いていた。
そして…イルカに押されて水面を腹ばいで滑るトレーナーが手を振って、目の前で2頭のイルカが前ビレを振ってバイバイをして終了。
15分ほどのショーだったけど…とても楽しかった。
車までの道のりを彼の手に繋がれ歩いてるけど…まだ、4月半ばの夕暮れ時だから海から吹く風は冷たい。
だから、手を離し彼の腕にしがみつく。
彼は、何も言わず笑っているだけ…
「イルカ可愛かったね」
「あぁ…イルカショーなんて大人になって初めて見たよ」
「そうなの⁈…大人になってもイルカショーって楽しいよね」
「お前の喜びかたは、隣にいた子どもとたいして変わらなかったぞ」
「全然違うわよ」
「ふふ…まぁ、楓の意外な一面見れたし、来た甲斐があったな」
私をからかう溝口さんを横目でジロッと睨んでも楽しそうに笑っていた。
(私も忘れないからこの時間を忘れないでね)
心でつぶやく。
それなのに
「また、2人で来ような」
そんな優しさなんていらないのに…
胸が苦しくなる。
「……来れるといいな」
私の返事に何か感じたのか突然、ぎゅっと抱きめられた。
「……苦しい」
「少しぐらいガマンしろよ」
じゃあ、私も…
と、ぎゅっと背を抱きしめる。
「……溝口さんの匂い(あなたが)好き」