〜愛が届かない〜
誘惑にさよならする時
ベッドの中から彼を見つめる。
体を起こしベッドの背に寄りかかり、タバコを吸う姿を忘れないように脳裏に焼きつける。
少し目を細め煙を吐く姿をかっこいいと改めて感じる。
彼の吸うタバコの黒い箱には
ブラック デビルと印字してあり、自販機にもコンビニでも見つけれなかった。
やっと見つけた場所は、昔ながらのタバコ屋さんで彼のタバコを一箱買った。
お香のように香りに包まれれば会えない時間を彼の香りで埋めれた。
だけど…もう、それも終わり。
今日の日を忘れない。
愛の言葉なんて1度もなかったけど…
今日、あなたがくれた甘い言葉があれば
私は、あなたから離れられる。
私がどんなに好きになっても…
伝わらない恋に終止符を打つ。
ベッドから出て彼に背を向けた私は、床に落ちている服を着て鞄を拾うと、そのままホテルのドアノブに手をかけた。
彼を見るとこの部屋から出れずに、彼の胸に飛び込みそうだから
その間…
彼がどんな顔でいたのか知らない。
「もう、電話もメールもしないで……さようなら」
声を震わせないように
「…楽しかったわ」
最後の強がりだった。
そして…ガチャンとドアを閉め私は走ってホテルを後にした。