〜愛が届かない〜

「……女子力ね⁈そんなことしなくても男が寄って来るだろう⁈」

また、意地悪く笑う溝口さん。

ちょっとイラっと来るけど…

「素敵だなぁと思う人は来ないですよ。だから、気に入った人にはこうして女子力見せるんです」

「クックク…いいね。俺は気に入った子にはこうするんだよ」

肩がぶつかりそうだから、膝の上に乗せていた左手を掴み、テーブルの下で恋人繋ぎをしだす溝口さん。

こんなに積極的な男は初めてだ。

涼しい顔で空いている手にワイングラスを持ち、にこやかに私の反応を見ている。

いつもの男達と勝手が違う。

柚月のように素直にかわいい反応ができればいいけど…とっさの出来事に戸惑ってしまう。

だから、ワイングラスを口まで運び、表情を隠してちびちびと飲んで時間稼ぎ。

一筋縄ではいきそうにない男を、どうしたらあしらうことができるのかしら⁈

そこへ焼きたてのピザが運ばれる。

「わぁ…美味しそうですね。熱いうちに食べましょう」

でも、繋いだ手は離してくれそうにないから…

「ね…溝口さん」

指を抜き取る仕草をするとクスッと笑ってぎゅっと握られてしまう。

「熱いから俺が取ってあげるよ」

そんな溝口さんを楽しそうに見ていた悠さん。

「俺たちの分もよろしくお願いします」

「先輩にやらせるのか⁈」

「俺、今は手が離せないんで…」

「だろうな⁈」

お互い口角を上げ微笑む男同士のやりとりは、お互いに何をしているのかお見通しのよう…

「溝口さんも手が離せないのにすみません。でもそちらは俺と違って余裕ありそうですから…」

含みを持たせた言葉と笑顔の前に、溝口さんが取り分けたピザを置いた。

「ありがとうございます。柚月、ほら…口を開けて」

「…た、食べれる。1人で食べれるからもう…やめてよ」

沈黙を続けていた柚月が、顔を真っ赤にして抵抗しだすけど…口の前でピザが食べやすいように丸まって待機中。

ちらっと私を見た柚月に、目配せと顎で『食べな』と合図した。

ぎゅっと目をつぶり諦めた柚月は、パクッと噛みちぎり、口の端にソースがついていることにも気づかないでもぐもぐと口の中で咀嚼する。

ふふふ…かわいい奴。
こんな姿を見せられたら悠さんはどうするのかと視線を向けると、やっぱり頬を緩ませて見ている。

「柚月、口の端にソースがついてるよ」

「えっ…楓、どこ?」

目を開き、私に確認する柚月。

「右端」

おしぼりで取ろうとする柚月より先に悠さんの親指がソースを拭い取る。
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