〜愛が届かない〜

「取れたよ」

親指についたソースを悠さんは自分の唇でパチュと吸い取った。

あ然とする柚月。
そして、何が起こったか理解できれば目を潤ませ真っ赤にした顔は下を向いてしまう。

悠さん、やり過ぎでしょう。

冷ややかに悠さんを見つめた。

それでも楽しそうに笑い、柚月だけを見ている。

こんなに愛されて羨ましいと嫉妬するぐらい、私は自分の男運の無さを痛感してしまう。

いいなと思った人には必ず、彼女や奥さんがいるし、フリーだという男は、遊び目的の男ばかり。男に性欲があるように女にだっていつもじゃないけど…ストレスが溜まってる時とか男の色気に欲情することがある。そんな男達とは割り切った1回限りの関係で終わらせる。

そして、今、私は隣の男の色気に欲情している。

片手なのに長い指が器用にピザを取り分けて食べやすいように丸められ『はい、どーぞ』と笑顔と一緒に目の前に出される。

これは、どうするのが正解なの?

今しがた目の前で起きた光景を真似するのが正解⁈それとも、空いているもう一方の手で取るのが正解⁈

わからない。

こんなことする男なんて知らないから…

「ありがとうございます。でも、私猫舌なので後でいただきますね」

言葉だけを返し、ピザを受け取らないし、口の中にも入れない。

混乱するし、動くたびに香る甘い香りと私の香水が合わさるからなのかボーとして考えることができない。

だから、どの答えも選ばず最善の対策をとる。

そして、すかさず会話を変える。

「柚月…大丈夫?なんだか元気ないみたいだけど…」

「……うん、きっと、仕事始めたばかりだから疲れが取れないのかも…」

「そう?(それなら一緒に帰ろう)」

『そうだね、俺はこいつ連れて帰るんで彼女お願いしますね』」

私の声に悠さんの声がかぶさり、逃げる手立てを逃してしまう。

「ちょっと、勝手に決めないでよ。私、1人で帰れるし…」

「ダメだよ。また、痴漢にあいたいの⁈」

「うっ…」

「一緒に帰ろう…」

勝ち誇る悠さんがスッと立ち、甘い声と微笑みで柚月を立たせた。

「その手はいつから繋いでいたのかな⁈」

からかう溝口さんに

「始めからだけど」

堂々と恥ずかし気もなく言い切るから、苦笑した溝口さんが手のひらで追い払う。
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