〜愛が届かない〜
「お先でーす」
「えっ…ちょっと…楓、またね」
まだ、戸惑っているのかと思いきや、笑顔で手を振るから、柚月の恋を邪魔する訳にいかないと手をヒラヒラと振り返した。
「さて、俺たちはどうする⁈」
テーブルの下から繋いでいた手を出して見つめてくるから…
「とりあえず、ピザを食べたいんで手を離してくれませんか⁈」
そんな返しが来ると思わなかったのかフッと笑い
「………いいよ」
と手を離してくれた。
横並びのまま、たわいもない会話をしてワインとピザを食べきる。
「お腹、いっぱい」
「じゃあ、そろそろ出る⁈」
腕時計をチラッと見て私に視線をを向ける。
「……そうですね」
さっきまで繋いでいた手の感触と会話がよみがえり、急に、ドキドキしてくる。
レジに行くと悠さんが会計を済ませてくれていたようで、追加オーダーもなかったのでそのまま支払いもなくお店を出た。
一瞬の沈黙…この男といるのは危険だと
頭の中で警報がなる。
「……」
「………今日は、楽しかったです。私、帰り電車なので…おやすみなさい」
「夜道は危ないから送って行くよ。あいつにも頼まれたしね」
「……大丈夫ですよ。まだ、電車があるし実家暮らしなので家の人に駅まで迎えに来てもらいますから気にしないでください」
これまでの男は、1回限りの女の為にラブホ代にお金を使おうとは思わなかったから…実家暮らしって言えば、下心ある大抵の男は引き下がる。
「それじゃ、おやすみなさい」
2度目のおやすみなさいを笑顔でいい、彼に背を向けて歩き出す。
しつこくなくてよかったと…心の奥でホッとする自分
そして…あんなセリフを言った癖にあっさり引き下がる男にイラつき、なぜか落ち込んでいる自分がいる。
モヤモヤする頭で歩いていたから、信号が赤に変わっていることに気づかないで
一歩踏み出した。
「危ない」
その瞬間、背後から抱き抱えられ、甘い香りと先ほどまで隣で聞いていた声が私を包んでいる。
「……あ、ありがとうございます」
「追いかけて来て正解だったな」
えっ…首だけを横に向けて振り返り、横から覗くように見ていた溝口さんと視線があった。
熱い眼差しに射抜かれ抱きしめられたまま動くことも話すこともできない。
背後から頭を押さえられグッと引き寄せられた先には、溝口さんの唇があり抵抗もせずに私はその唇に触れた。