〜愛が届かない〜
誘惑は甘く囁く

春だというのに触れた唇は暖かく、背中に感じる胸からは、追いかけて来たという彼の言葉の通り鼓動が少し早く脈打つのがわかる。

「このまま、お前を帰せない…キス以上のこと俺と試してみない⁈」

目を見つめ触れる唇の上で話しだせば、彼の唇から香る強めの甘い香りが鼻先をくすぐる。

誘惑する唇は、生々しく何度も啄みYesの答えしか受けつけないと言わんばかりに下唇を甘噛みし欲情を煽る。

「キス以上って…⁈」

欲情してしまった身体の感じるまま素直に囁いた。

その答えを待っていた男にそのまま背後から肩を抱かれ、細い路地へと誘導される。

薄暗く人の通りが少ないだろう路地では、電柱の灯りだけが頼り。その下で男は壁に背をつけ女の腰を抱きしめるとあっという間にキスに夢中になる。そんな2人をスポットライトのように照らす灯り。

お互いに角度を変え、舌を絡め吐息さえも逃さない。

甘い香りが口の中いっぱいに広がり、鼻から抜ける。羞恥心を忘れ乱れる呼吸に欲情する自分を止められない。

それなのに余裕たっぷりで離れる唇が憎たらしいぐらいだ。

「…その顔、エロすぎ。どれだけ夢中なの⁈」

頬を撫でる男の手のひらが唇を滑り、指先が動く唇をとらえる。

「あなたに⁈キスに⁈」

「どっちだろう?確かめるからその顔をもっと見せてよ…」

「……あなたしだいよ」

フッと笑いぎゅっと手を繋いで来た男と路地の向こうにあるラブホへと歩いて行く。
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