〜愛が届かない〜
始まり
「お前の手…冷たいな」
男の手が暖かいから余計に冷たく感じるのだろう。
「……そう?」
「あぁ、でも…こうすれば暖かい」
繋いだままの手をスーツの上着のポケットに入れた。そうすると、必然的に密着してしまう。
「ちょっと、歩きにくい」
照れ隠しに文句を言うと、ポケットの中で手を繋ぎ直し指を絡ませた恋人繋ぎに変わった。
余計に悪い。
ホテルに行くなんて初めてじゃないのに、手を繋いで…それも本物の恋人のように寄り添ってロビーに入り、部屋を選んでいる。
「どれにする?」
「……」
部屋を選んでくれる男なんて初めて。
勝手に選んでいた男達と違い、私の意見を聞いてくれることに戸惑いを感じる。
空いている部屋は、可愛らしいフリルでいっぱいの部屋と、黒を基調としたシンプルな部屋、そして、露天風呂付きの豪華な部屋。
露天風呂入りたいかも…
「俺も露天風呂入りたい。いいよね」
心を読み取ったように私の顔を見て、微笑むとボタンの押す。
出てきたカードキーをスッと取り、繋いでいた手をポケットから出し私の腰に手が回ると、密着度がさらに増し寄り添う2人は恋人同士にしか見えない。
本当にこの男にはさっきからドキドキさせられぱなし。
スーツから香る甘い匂いが欲情を煽り、身体の奥が彼を求めて疼いている。
狭い個室が上昇する。
寄り添ったまま彼の肩に手を乗せ、ちょっと背伸びして彼の唇に自ら触れる。
こんなことするなんて初めて…
彼は驚くどころか、楽しそうに笑みを浮かべ腰にある手にぎゅっと力を入れれば、彼の腕の中に囚われる。
彼の唇は焦らすように、私にされるがままで、彼の唇を咥えたり、啄ばんだりと止まらないキス…一向に舌を絡めてこない男に焦れて舌で下唇をなぞるれば、ビクッと動き離れる男の体。
「…後で覚えておけよ」
余裕たっぷりで意地悪く笑う男に、止まったエレベーターから連れ出され部屋をカードキーで開ける。
開けられた部屋の向こうは一面ガラス張りで、その奥には高い塀がある広いテラスが見えた。
「わぁ〜、すてき」
はしゃいだ私は部屋を探索し出した。
ウッド調の引き戸を開ければ、そこはキングサイズのベッドで、それに、ちょっとドキッとする私。
ここで彼と今から……するんだ。
ネクタイを解きながらいつの間か背後に
立つ男にドキドキして、逃げるように奥のガラス戸を開ける。