石田先生、忍者になるの巻
__まずい。なんて犬だ。変わり身の術のスペシャリストのこの俺を見破るとは。顔は可愛らしいパグのくせに、その体躯たるやいなや、まるで豹。そうか、服部家が黒豹の血を混ぜたに違いない。パグの愛嬌で油断をさせておいて、その鉤爪でのど元を掻っ切る。このままでは殺られる。そうなる前に術を解き、こやつらの口を封じねば__。
「甘いもん、食べた?」
「なに⁉︎」
思わず声を出してしまった。
壁と同化しているはずなのに。それなのにこの輩は壁に囁きかける。
「だから甘いもの、食べたでしょ?」
「それは__友が好きだった大福を食べて偲んで…」
「だからだよ。半蔵は甘いものに目がないんだ。匂いで分かる。ていうか、ずっと口の側から離れないくらいなんだから」
だからなんだというのだ。
今、動きを封じられているのは俺のほうだ。しかも犬は吠え続け、しまいに騒ぎになる。
くそう。
友の無念を晴らしにきたが、ここまでか…。
「早く行って‼︎」
「なに⁉︎」
「半蔵、惹きつけとくから。その代わり、その壁の布ちょうだい。俺の、半蔵がオシッコしちゃったんだよね。このままなら、塚田クンからオヤツ貰えないよ」
「…かたじけない」
思案する間もなかった。俺は塀を飛び越えて逃げ出した。
なんてヤツだ。
あの場面で手柄ではなく、慈悲を差し向けるとは。
なかなか手練れた忍びが1人いる。
いや待て、そうか。
あいつは、仲間なんだ__。