石田先生、忍者になるの巻
忍者屋敷1番の名物(忍者ショー)は、今日も満員御礼だった。
ボクは舞台の裏から、先輩忍者たちの勇姿を盛り上げる。
隣には、手裏剣を持たせてももらえない石田先生が半分、居眠りをこいている。少し可哀想かな。これが終われば、教えてあげようか__。
忍び同士の殺陣が始まった。
ここ1番で、刀と刀が火花を散らす音を演出する。
忙しなくボタンを押していたけれど__なんだか、いつもと違う。
それは、舞台の裏からお客さんを真正面に捉えている、ボクだから気づいたのか。盛り上がるお客さんの一角だけ、目が笑っていない。手を叩きながらも、その黒目が小刻みに動くのだ。
その目は、刃の流れを追っている?
あいつらは、一般人に紛れ込んだ刺客だ‼︎
ボクが立ち上がったと同時に、刺客たちが舞台に襲いかかった‼︎
これも演出の一部だと勘違いした観客からは歓声が上がる__目の前で血しぶきを上げてもなお。
「ど、どうしよう…」
夢で描いていた戦が、まさに目の前で行われている。
音響などでは決して表せない、苦悶の喘ぎと息遣い、ボクはただ呆然とそれらを聞いているだけだった。
舞台の裏に、血走った目の忍びがやってきた__。