石田先生、忍者になるの巻
水遁の術はちょっと遠慮願いたいの巻


フフフ。冷淡な微笑が気泡となって波紋を広げる。忍術において最も忍耐を必要とする、水遁の術。矢面に立たない忍びとなり忍ぶ道を選んだ時から、其処は薄暗い水の底。息を殺し気配を殺し、己の存在をも消すのだ。そうやって幾日もやり過ごすと、水と化す。指先を弾くと、それは湖全体を揺るがすだろう。海と成る日も近い。そうやって敵地の水に化けるのだ。かれこれ3日となろう。そろそろ勝機の光が一筋、この暗がりに差し込むはず。奇襲をかけよう。この池から這い出る時が来た…。


「こんな汚い池には、指一本入りたくない」


「ワガママ言わないで下さい」


「それより火遁の術がいいかな」


「火遁の術は危険が伴います。まだ先生には早いですよ」


「てかさ、そもそも服がベチャっとするよね。ただでさえこの忍者の服、張り付きそうだし、脱着がメンドうなんだよ」


「とにかく、ボクが見本を見せますから」


「ええーっ、塚田くん、この池に入るのー?」


「水と化すんです」


「誰がツバ吐いたかわからないよ。絶対、誰かオシッコしてるよ。あ、大きいほうも沈んでるかもよ」


「やめて下さい‼︎」


ぼこっ。


池から、そんな咳払いが聞こえたような気がした。


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