秋麗パラドックス
「…ふふっ、そうよね。そう言えば聞いたわよ」
「何を?」
「二年前から橋下くんに口説かれてるんですってね」
橋下くんとは、その父の入院の時に知り合った。
そのとき彼は研修医で、よく相談に乗ってくれたりもした。
そして、偶にご飯に行ったりする仲になったのだ。
それを口説かれてると言われるのは、気分が悪い。
向こうだってそんなつもりないはずなのに。
「私なんかを口説くわけないじゃない。橋下くんに失礼だよ」
「ふふっ、どうだか」
腹が立つような笑みを浮かべる萩原さん。
苛立ちを押さえながら、私は溜息を吐く。
橋下君がかわいそうと思いながら、私は小春の方に向く。
「…とにかく、私は帰るから」
「奈瑠、もうちょっとだけ…」
「私は…」
『帰る』と、言おうとした。
けれど、言わせてはもらえなかった。