秋麗パラドックス
でも、嫌いで別れたわけじゃなかったから、別れた後も私はずっと“彼”が好きだった。
だから、見せつけるように常に一緒にいる二人を見るのは、精神的にキツかった。
なのに、三年に上がれば、萩原さんと同じクラスになってしまって。
それに拍車をかけるように受験が始まり、精神状態はもう最悪だった。
いつしか『好き』という気持ちは、『憎しみ』に変わっていた。
もし、徹が普通の家庭の子だったら。
もし萩原さんが、徹のことが気に入らなかったら。
もし私が、―――萩原さんの立場だったら。
萩原さんが羨ましくて仕方がなかった。
何でも手に入って、幸せそうで。
私は、泣き叫んだことを覚えてる。
徹に会ったら、あの日々に戻りそうで怖いんだ。
「…っごめん、私帰るから」
私は走り出そうとした。
けれど、小春に『奈瑠!』と腕を掴まれて。
「放して!」
「放さない!話さなきゃ、いつまで経っても同じことの繰り返しだよ?!」
小春は何を言っているのだろう。
意味が分からなかった。