秋麗パラドックス





「私は…っ」




『もう一度、付き合う気はない』
ハッキリと、そう言おうとした。

けれど途中で彼が、



「奈瑠の気持ちは分かった」




と遮った。
きっと、聞きたくなかったんだろう。
私の口から。



「…もう、遅いんだよ」

「もっと奈瑠が、子どもだったらよかったのに」



私だって思うよ。
もっと子どもだったら。
何もわからない、素直な子どもだったら。

きっとその手を掴んで、離さなかっただろう。



「もう、十分だよ」



十分、私は幸せをもらったから。
私はそう言って、駅の方へ歩いていく。

後方から、小春の『奈瑠…っ本当にいいの?!』と言う声が聞こえる。
いい。
いいんだ、これで。



私は真っ直ぐ駅に向かって歩いて行った。





< 33 / 47 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop