秋麗パラドックス
「私は…っ」
『もう一度、付き合う気はない』
ハッキリと、そう言おうとした。
けれど途中で彼が、
「奈瑠の気持ちは分かった」
と遮った。
きっと、聞きたくなかったんだろう。
私の口から。
「…もう、遅いんだよ」
「もっと奈瑠が、子どもだったらよかったのに」
私だって思うよ。
もっと子どもだったら。
何もわからない、素直な子どもだったら。
きっとその手を掴んで、離さなかっただろう。
「もう、十分だよ」
十分、私は幸せをもらったから。
私はそう言って、駅の方へ歩いていく。
後方から、小春の『奈瑠…っ本当にいいの?!』と言う声が聞こえる。
いい。
いいんだ、これで。
私は真っ直ぐ駅に向かって歩いて行った。