秋麗パラドックス
「…っ、奈瑠!」
私の名を呼び、後ろから追いかけてきたのは、
「…小春」
求めていた人じゃなくて、小春だった。
「何?」
苛立ちのあまり、小春に当たってしまう。
そんな私の当たりに、少し怯む小春。
「…っ奈瑠はそれでいいの?」
「そんなことを言いに来たの?なら、帰って」
それでいいの、の趣旨は先程のことだと言うことは聞かなくても分かる。
そんなことは聞きたくなかった。
余計に冷たくあしらってしまう。
「素直になりなよ、奈瑠!」
「素直に、なんてよく言えるよね。あの頃の私を一番知ってるくせに、…その元凶に頼って就職して?挙句には友達を売るようなことをして」
小春に酷い言葉を言ってしまう。
小春には、関係ないのに。
なのに、当たってしまう。
止まれと思っても、この口は止まってはくれない。
「…っそんなのじゃ…!」
「私が本当に何でもないって思うと思ってた?所詮その程度の友達だったってことよね」
傷ついた表情の小春。
そんな彼女を見てもなお、私の口は留まる事を知らないかのように次々に出る言葉たち。
「裏切り者」
自分が思っているよりも、ショックだったんだ。