秋麗パラドックス
『…何で知って…』
『徹』
―――もう、十分だよ。
私がそう言って笑うと、徹はさらに腕を強く強く抱き締めた。
…もっと、強く抱き締めてよ。
私を、離さないでよ。
そうは思っても、もう、叶わない。
…徹も、将来はその病院を継ぐ立場にある。
徹の夢だって、医者だ。
それを考えると、絶対にこの方がいいと。
それが、私が出した答えだった。
『徹のことを考えてあげて?どう考えたって、何も後ろ盾のないあなたと一緒にいるより、私と一緒にいる方が、彼のためになると思わない?』と荻原さんに言われた。
…本当にその通りだと思った。
私は彼に、何を与えてあげるだろう。
考えても考えても出てこない。
それならば、最後に私が彼のためにできることは。
これくらいしかないから。