秋麗パラドックス
君の元へ、もう一度
母校の前に止まっていた、艶やかな黒塗りの高級車。
その車の中に乗り込もうとする男。
私は彼に向かって、『待って、徹!』と呼び止める。
私の声に反応した徹。
こちらを見た徹が、驚いていた。
まさか私が、戻ってくるとは思わなかったのだろう。
「…奈瑠」
驚きの表情を隠せない徹は、私を視界に入れた途端に、目を大きく見開いていて。
私の名を呟いた。
私は、何度彼から逃げただろう。
現実から目を背けていただろう。
自分が傷つきたくないがために、彼を振り回した。
何度だって、彼は私に接触しようとしてくれていたのに。
私が、遠ざけていた。
…もう、そんな日々にさようならを告げよう。
憎んで、憎まれて。
誤解して、誤解されて。
もうそんな日々に、さようならをしよう。