秋麗パラドックス
もう一度なんて考えたくなかった。
もう一度、やりなおそうなんて絶対に嫌だった。
なのに、
「…奈瑠?」
「どうして徹は私の中から、消えてくれないの?」
目が合ったあの瞬間から、姿をこの目で捉えてしまったあの時から。
私は、彼への想いが、気持ちが、離れない。
離れてくれない。
だから、もう二度と、会いたくなかったの。
姿を捉えたくなかった。
きっと、溢れんばかりのあの頃の気持ちが、戻ってくることが分かっていたから。
その言葉の意味を、頭のいい徹すぐに理解した。
『…本当か?奈瑠』と。
そう呟きながら、私を強く強く抱きしめた。
離れないように、離さないように。
抱きしめて、離さなかった。