秋麗パラドックス
実際に、幸せを掴んでる佐紀の方がどちらにせよ勝ち組なんだ。
一人なんて、寂しいだけ。
幸せの物差しなんて人それぞれだ。
一人でいることが幸せと思う人もいると思う。
けれどどちらにせよ、何にせよ、人間は一人じゃ生きていけない。
それは事実でしかない。
スマホを突いていた小春が、私が来たことを確認すると止めた。
「気にしなくてよかったのに」
「ううん。いいの、丁度落ち着いたところだったから」
「そう?」
そして少しして、『全員揃った?』と言う声がする。
きっと、幹事をしてくれている子なのだろう。
『揃ってるよ』と言う声がどこからか聞こえて。
『じゃあタイムカプセルの場所に移動しよう』と言う声がする。
その声の後、すぐに周りを見渡した。
―――彼は、いない。
確認すると、ほっとした。
今まで同窓会に参加したくなかった理由の人が、いなかったから。
そしてその姿を見た小春が、
「…奈瑠、あんたまだ…」
と呟くように言いながら、私を見ていて。
私は苦笑いしながら、『まさか』と言う。
そう、会いたくないだけだ。
できるなら、―――ずっと。
その私の表情の意味を汲み取ったのか、それ以上は何も口にはしなかった。
けれど、私の心の鉛として今でもなお、“彼”がいることを彼女は知ってしまった。
そんな瞬間だった。