空の愛し方
 
「天気いいねぇ。」

 鼻歌混じりの彼女の声は、高く澄んだ青空に似ていた。
 何も答えない俺の横に追いついた彼女は、俺を見上げて、

「空って、あんたみたい。追いかけても追いつけないんだもん。」

と、悲しそうに笑った。

 驚いた。
 彼女は追いつけないと分かって、俺を追いかけている事に気付いている。
 健気に笑うその顔が、不意に歪み俺を睨んだ。

「・・・ンだよ?」

 立ち止まって見下ろす彼女のギラギラした瞳、艶やかな唇。

「私の事、好きって言えっ!」

 投げつけられた言葉と一緒に、生温い風が吹く。
 先程まで晴れていた空に黒い雲がかかる。

 彼女の怒りに合わせたような空を見上げて、俺は舌打ちした。

 俺の行く手を塞ぐように、彼女は同じ言葉を繰り返す。

 何故、言葉を欲しがる。
 俺が言わないのは分かっているくせに。

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