何度だって咲かせよう(仮)
「ただいま」
結局少ししてから家に入り、そのままリビングへむかう。
「めいちゃん、お帰り〜はやかったのね」
「夜ごはん食べてないんだけど、残ってる?」
「大丈夫よ」
芽依子が夕飯抜きにならなくてよかったと思っていると、突然父が口を開いた。
「めい、今日一緒に出かけたのは彼氏か?」
「へ?」
「パパ、駅前で手繋いで歩いてるのを見たんだ。怒ったりしないから正直に言いなさい」
「…うん、この間から付き合い始めたの」
「そうか…どんな子なんだ?」
「同じクラスの人で、あんまり表情豊かじゃないって言われてるけど、すごい優しい人」
「彼ね、めいちゃんのことを毎朝迎えにきてくれてるのよ〜」
「もう、そんな歳なのか…」
心なしか父の声色が寂しそうに聞こえる。完全に肩も下がっている。
「パパにはママがいるじゃない、ね!」
「そ、そうだ!パパにはママがいるぞ!」
空元気なのが丸わかりだ。それもそのはず、芽依子は藤田家の一人娘で、小さいころからパパっ子だった。高校生特有の父親に対する不快感はなく、たまに一緒に出かけたりもする。
幼いころは、パパと結婚する宣言もしてたような気がするが、いつも別の誰かに止められていた。「めいちゃんは僕と結婚するんだ!」……あれは、誰だったんだろう?
「ところで、その彼の名前は?」
「桜田悠馬くんだよ」
その瞬間、リビングの空気が止まった。
父と母は顔を見合わせている。何かがある、芽依子はそう感じたが、それはなんだかわからなかった。