何度だって咲かせよう(仮)
桜人
あのバレンタインから、特に変わったことはない。毎朝迎えに来てくれることも、手をつないで歩くことも、帰り際キスをすることも。何一つ変わらない。唯一変わったことといえば、芽依子の心情だろう。ただ悠馬が好きだったところから好きと不安の半々になった。
そんな気持ちを抱き、一ヶ月ほどの時間が流れていた。
*
「今日は悠馬、休みだよ」
「あ、そう…」
芽依子は今日も八時に家を出たが、いつもの場所に悠馬はいなかった。ギリギリまで待ったが来る気配もなく結局一人で登校し、教室に来てから司から悠馬は休みだと聞いた。連絡もしたが、全く返信もなかった。
(一言ぐらいあっても、いいじゃない…)
「あ、そうだ!藤田ちゃん、今日お見舞い行ってあげてよ」
不安そうにしていた芽依子を見かねた司がそう言う。
「え、じゃあみんなで行こうよ」
「んー、具合悪いのにみんなで行ったら迷惑じゃん?だから代表して藤田ちゃんが行ってきて!」
芽依子はためらいがちに口を開いた。
「……実はさ、悠馬くんの家知らないの」
そう、芽依子は悠馬の家の場所を知らない。バレンタインのときも、それ以前からも悠馬のことを聞こうとすると、聞くなとばかりに黙り込んでしまい、聞けずにいたのだった。
(彼女って彼氏のことを知ってるべきじゃないのかな…?)