幽霊の影
『……無口で無愛想でクラスに馴染めていない私に学級委員長という役目が務まるはずも無い事は、誰の目にも明らかだったはず。

しかしそれでも、彼女は尤もらしい屁理屈を並べ、執拗に私を推薦した。


その時、クラスの誰も――恐らく担任教師さえも――気付いていなかったであろう、この女子児童の企みを、私は見抜いていた。


彼女は気が弱そうな私を形ばかりの学級委員長に仕立て上げておいて、自分は「陰の実力者」になりたかったのだ。

責任や面倒事を私に負わせ、自分はその陰で権力だけを行使する。

彼女1人にそんな真似が出来るとは思えなかったから、恐らく友人たちと共謀するつもりだったのだろう。


冗談じゃない。

なんで私がそんな企みの犠牲にならなきゃいけないのか。


そこで私は、自分がいかに学級委員長というポジションに不向きであるか、そして不向きな者が学級委員長なんかになったらクラス中に迷惑がかかるという事、他の仕事で(飼育係に立候補していた)ならクラスの役に立てる事を、簡潔に説いた。

私に反論出来る者は1人もいなかった。

当たり前だ。

私の言ってる事が一番正しいのだから。


皮肉な事に、最終的に学級委員長に決まったのは、私を執拗に推薦し続けていた例の彼女であった。

相当な反感を買ったが、彼女は決して自分に威圧されない私を恐れたのだろう、せいぜい大っぴらに悪口を言うか、そうでない時は私を徹底的に無視するか、その程度の事しかしなかった。

積極的に私に関わってこようとは、絶対にしなかった。

その判断は正解だったと思う。

下手に攻撃的に関わってきたところで、私は絶対に負けないのだから。

彼女に勝ち目は無いのだから。

その判断の正確さにおいてだけは、彼女を誉めてあげてもいい。


それにしても、自分で打ち負かしといて何だけど、つくづく無様な負け方だと思う。

私の返り討ちに遭い、学級委員長にされてしまい、そして彼女の友人たちは、彼女に慰めの言葉は掛けても、自らを犠牲にして立場を替わってあげようとは決してしないのだ。

慰めながら、自分が学級委員長に選ばれなかった事に内心、ほっとしているのだ。

子供か大人かに関わらず、女同士の友情なんてのは所詮、そんなものである。

「孤高の、特別な存在」でないばっかりに、そんな友人たちを責める事も出来ず(恐らく友人を責めるという発想すら、そもそも無かったろうが)、結果を受け入れるしかない彼女が、端で見ていて何とも哀れで、そしてまた愚かでもあった。


誰かとつるんで安心しているうちは「孤高の、特別な存在」になり得ないばかりか、それに勝つ事さえ出来ない。

「その他大勢」が、単なる物理的な人数以外の要素で「孤高の、特別な存在」を凌駕する事など、絶対にあり得ないのだ。』
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