幽霊の影
――って言うか、なんで幽霊の少女時代が「私の勝ち」なのよ。
どこからどう見たって最底辺の負け組じゃん。
鼻で笑い、リモコンの電源ボタンに指を乗せたところで、ふと「もう少し見てやるか」という気になった。
話題は、机の上にあったという遺書の事へと移っていった。
その内容が読み上げられる。
「エッセイ『私の勝ち』を以て、思っていた事は全て表現し尽くしました。
この先、作品にしたいテーマがまた見付かるかもしれませんが、私はここで充分です」
繰り返し画面に映し出される生前の幽霊は、相変わらず長く伸ばした髪にパーマもカラーリングもせず、化粧っ気の無い見るからに大人しそうな女であった。
一体何の拘りがあって、成人しても尚あの垢抜けない髪型を保っていたのだろう……
ま、そんな事はどうでもいい。
私はようやくテレビを消した。
大きく伸びをして立ち上がり、マンションの10階、リビングの大窓から、秋雨に濡れた寒々しい外の景色を見下ろす。
そろそろ瑛梨奈が帰って来る時間だ。
今日は塾もテニスクラブも無い日だから帰宅が早いのだ。
小学4年になる一人娘と、揚げたてのドーナツを食べさせる約束をしていた事を思い出す。
――準備しなきゃ。
全くつまらない事で時間を無駄にしたものだ。
どこからどう見たって最底辺の負け組じゃん。
鼻で笑い、リモコンの電源ボタンに指を乗せたところで、ふと「もう少し見てやるか」という気になった。
話題は、机の上にあったという遺書の事へと移っていった。
その内容が読み上げられる。
「エッセイ『私の勝ち』を以て、思っていた事は全て表現し尽くしました。
この先、作品にしたいテーマがまた見付かるかもしれませんが、私はここで充分です」
繰り返し画面に映し出される生前の幽霊は、相変わらず長く伸ばした髪にパーマもカラーリングもせず、化粧っ気の無い見るからに大人しそうな女であった。
一体何の拘りがあって、成人しても尚あの垢抜けない髪型を保っていたのだろう……
ま、そんな事はどうでもいい。
私はようやくテレビを消した。
大きく伸びをして立ち上がり、マンションの10階、リビングの大窓から、秋雨に濡れた寒々しい外の景色を見下ろす。
そろそろ瑛梨奈が帰って来る時間だ。
今日は塾もテニスクラブも無い日だから帰宅が早いのだ。
小学4年になる一人娘と、揚げたてのドーナツを食べさせる約束をしていた事を思い出す。
――準備しなきゃ。
全くつまらない事で時間を無駄にしたものだ。