幽霊の影
街路樹の紅葉の合間を見え隠れしながら、2人の後ろ姿はどんどん遠ざかっていく。


娘は我が家の方を振り返る事も無く、隣の少女と同じ歩調で、マンションから、私から、どんどん離れていく。



――幽霊なの?


瑛梨奈をどこへ連れて行くの?



とうとう、私の位置からは2人の姿が見えなくなってしまった。



――瑛梨奈……!



ガシャ、と音がして、足に熱いものが触れた。



フローリングの上にティーカップの破片と、こぼれたハーブティーが広がっている。



瑛梨奈を連れ戻さなければ。


汚れた床もそのままに、私は家を飛び出した。


今日に限ってなかなか動かないエレベーターに業を煮やし、非常階段へと走ったが、階段へ出る鋼鉄のドアには「非常用」と書かれた厚いプラスチックのノブカバーが取り付けられていた。


――今だって非常時なのに……。
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