幽霊の影
余程ノブカバーを壊そうかと悩んだがさすがに思いとどまり、私はようやく辿り着いたエレベーターに飛び乗った。


乱暴に「1」のボタンを連打し、永遠とも思えるようなこの密室の緩慢な動作に、カウントダウンする階数表示に

「早く、早く」

と、ひたすら念じ続ける。



ドアが開くと同時に駆け出し、マンションの外へ。


瑛梨奈たちが向かった方角へ、なり振り構わず急ぐ。



行く手に覆い被さるような灰色の分厚い雲と、燃えるように鮮やかな街路樹の紅葉の下

瑛梨奈のランドセル姿を、幽霊の不吉な黒髪を

探してひた走る。



2人の姿が見えなくなった辺りまで来た。


この先には交差点がある。



どの方向へ行ったものかと左右を見渡しながら、私はある事に気付いた。



瑛梨奈にはスマホを持たせているのだから、電話を掛けてみれば良かったのではないか。


何も慌てて走って来なくても。
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