幽霊の影
インターホンが鳴った。


瑛梨奈はようやく本から顔を上げ、こちらを向いて言った。


「友達が来た」


玄関に立っている瑛梨奈の「友達」は――

私もよく知っている、長い髪をばさりと下ろした少女。



うつむいていた彼女が、ちらりと顔をもたげる。


重苦しく生々しい黒髪の隙間からのぞいたその目には――

いや、正確には「目があるはずの、その位置」には

――真っ黒な空洞が、2つ。


彼女は存在しない目で、じっと私を見据えていた。



娘が幽霊の元へ駆け寄る。



「待ちなさい、瑛梨奈!

それは友達じゃないでしょ!」


「じゃあね、ママ。遊びに行ってくる」


「待って!行っちゃ駄目!」



連れ立って玄関を出て行く、瑛梨奈と幽霊。


2人を乗せたエレベーターのドアが、私の見ている前でゆっくりと閉ざされていく。


追いかけ、脚がもつれて転び、


――そこで、目が覚めた。
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