幽霊の影
いや、「全然」なんて事は無いと思う。


瑛梨奈は聡明な子供だ。


その辺の同年代の子供たちや、10歳の頃の私や幽霊なんかよりも。


小説家の資質の事はわからないが、その気になれば幽霊を超える人気作家にだって、ひょっとしたらなれるかもしれない。



だが、親の私にとって自慢の1つでもあるその聡明さが、今回ばかりは疎ましく、また同時に腹立たしくもあった。


瑛梨奈がその聡明さで幽霊を非凡な人間と見なし、賞賛した事が、たまらなく悔しかった。



「私にも才能と運があればなぁ。

いいな、この人が羨ましい」


再び文字に目を走らせながら、娘が言った。


「……羨ましい?」


幽霊が?


「うん。

いじめに耐えきるぐらい強くて、本を書ける才能があって。

すごいじゃん。かっこいい。

今、一番尊敬してる人」


幽霊を、尊敬……?
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