幽霊の影
「ママよりも?」なんて事は、怖すぎて冗談でも訊けなかった。


……と言うか、今の瑛梨奈の発言に、その答えは既に出されている。


娘は「一番、尊敬してる人」と言ったのだから。



激しい憎悪、嫌悪感に、ざわりと鳥肌が立った。



その感情はもちろん、陰気臭くて気が弱そうなくせに妙に強かで、一丁前に本なんか書き、私を差し置いて瑛梨奈からの尊敬を集める幽霊に対してのものでもあり、そして

幽霊なんかに真っ直ぐに憧れている、瑛梨奈に対してのものでもあった。



娘というのは、決して母親のコピーなどではない。


子供と言えども自分の価値観を持った、一個人。


その価値観が時に、親とは正反対の場合もある。



わかっていたつもりだった。


でも、それがこんなにも憎くて、苦くて、釈然としない事だったとは。



「……ママは、別にかっこよくなんか無いと思うけどな、その人」


「え?」
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