幽霊の影
瑛梨奈の四十九日が済み、冬が訪れた。



「別れてほしい」



珍しく話し掛けてきた夫に、離婚届を差し出された。


夫の署名は既にされており、印鑑も捺してあった。



その几帳面な筆跡を目にした時、私の頭に蘇ったのは


タクシーの窓から見た、夫によく似た後ろ姿

その隣を歩く、髪の長い女――。



「やっぱり浮気してたんでしょ」


「またその話かよ……」



眉間に皺を寄せ、舌打ち混じりに夫は言った。


こんなに鬱陶しそうに苛立った夫を見るのは初めてかもしれない。



しかもその苛立ちは、確実に私に対するものだ。



「違うの?


……じゃあ何?

私が瑛梨奈を追い詰めちゃった事が許せないから?」


「いや、瑛梨奈の事は、俺も同罪だよ。

お前の事と同じくらい、自分の事も許せないと思ってる」



いつもは名前を呼んでくれる夫に「お前」なんてぞんざいな呼び方をされるのも、初めてだった。
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