かまってくれてもいいですよ?
翌週の文学史の講義で、私は彼の姿を直ぐに見付けることができた。

室内では王様コートを脱いでいたけれど、それでもあのライオンのような華やかな姿は、大勢の中でも目立っていた。
 
彼の周りには、彼と対照的に鍛えられた身体つきの軟派な生徒達が腰をおろしていた。

彼らは確か球技系統のサークルだったはずだ。

ああいう人たちと仲が良いのかと、少しだけ意外性を感じながら、私は遠く離れた席に腰をおろした。
 
点呼は1年から順に、2、3、4年と呼ばれていく。
 
「美雲一姫」
 
そう呼ばれた際に、教室前方に座っていたあの男性が、こちらを振り返った。

その拍子に周りに座っていた厳つい先輩方も私を振り返る。

男性は、教授からは見えないように小さく手を振ると、すぐに前に向きなおった。そ

の周囲は、暫く私をまじまじと見ていたが、やがて前を向き、彼に対して何か話しかけているように見えた。
 
学食での一件から、この点呼の際のほんの一コマで、私はこの男性を強く意識するようになった。

「コミュニティ多元心理学科、3年」
 
そう教授が言ったところで、あの男性が顔を上げた。
 
「櫻田朝陽」
 
まだ聞き慣れない、なんだか新鮮で、それでいてとても特別な感じのする、響きだった。
 
男性は、顔にかかった前髪を後ろへと掻き上げながら、「はい」と口を動かした。

その声にならない声を、教授は知っているかのように拾い上げた。
 
――櫻田先輩……。
 
けして好きになったわけではない。
 
ただ、もっと先輩を知りたいという気持ちと、先輩に私を知ってほしいという気持ちが、少しだけ生まれたような気がした。
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