かまってくれてもいいですよ?
「一姫もツアー来ればよかったのに。櫻田君と仲良くやれたんじゃないの?」
様子を見に来ていた叔父からそんな言葉をかけられて、私は少しばかりつまらない顔をしてしまった。
どうせ先輩は叔父たちに気を配って立ち回っていたことだろう。
人付き合いに慣れている先輩だから務まったことに決まっている。
何事にも不器用で、口下手な私が、大人ばかりの環境に放り込まれたら、ストレスで胃に穴を開けるはずだ。
「それほど面識がないから、大学でも……」
目にかかる邪魔な前髪を頭頂部で結びながら、不貞腐れたような口調で答える。
こんなふてぶてしい態度ができるのも、身内が相手だからであった。
実際、叔父も大して気にする様子もなく、もう慣れましたとばかりに曖昧な笑顔を浮かべていた。
「まぁ、見た目からしても一姫とあまり関わりなさそうな人ではあるけれど。こちらとしては是非、卒業後はうちに!って感じだったよ」
無責任なことを言いながら、叔父は私に洒落た紙袋を渡してきた。
「どうせ要らないって言うだろうけれど、向こうのお酒ね。一姫が呑まなくても、誰かしら呑む人いるだろう」
まるでクリスマスのような、緑と赤の配色で施されたラッピングに、私は頬が引き攣った。
高級と言うことを包み隠そうともしない成金らしい物品だ。
こんな物を大学1年の私が一体誰に渡せるだろうか。
――天野先輩はそんなに深酒しない人だったっけ……。
9月の初めにあった呑み会にも不参加だったため、先輩たちの呑み事情を把握することができなかった。
もらい手がなければあの運転手のお兄さんにあげてしまおうと思い、一応は紙袋を受け取った。
「お金が足りなくなったらいつでも言えよ。ほしいものがあったら買ってやるし、いくらでも贅沢していいんだからな。折角の大学生活なんだ」
そんな叔父の甘い言葉を受け流し、私は靴を履き替えると練習場の真ん中へと歩いて行った。
どれだけ高く放ってもピンがぶつかる心配のない高い天井を見上げる。
そこには星座早見盤のイラストが描かれていて、夜に電気を消すと星が浮かび上がるようになっていた。
この絵が完成した時、私はまだ地元で高校生をしていたが、叔父がメールで写真を送って来て、しつこく感想を聞いてきたことは未だによく覚えている。
特に星に興味があるわけでもなく、アートへの理解も乏しい私は、特別感想という感想もなく、返事をしなかった。
それでも、また別の何かににピントを絞った時、ぼんやりと頭上に浮かぶ星空は、綺麗に思えることもあった。
――私以外の誰かもこの空を見上げることがあるのかな。
頭上に自分で投げたピンは、星空へ届く訳でもなく、また私の手元へと戻って来た。
何がしたいという訳でもないけれど、今自分がやるべきことはこれなのだろうか、とふと思った。
居ても立ってもいられない時に、それでも具体的な欲望が湧きあがらない。
高校生の時からそれに類似した苛立ちが私の中にはあった。
一体自分は何がしたくて、何をされたら満足なのだろう。
ボランティアツアーにも参加せず、お酒をもらっても素直に喜ぶことができず、叔父からの配慮にも大した感謝をできず。
可愛げがないということも、これでは駄目だということも、本当はとっくに分かっている。
それでも、今私は誰かから特別に好かれたいという気持ちがなかった。
だって、私がどれだけ頑張ったって、周りが私を認めてくれるはずがないのだから。
期待をするだけ無駄なのだ。
星空の下、複数のピンが舞う。
呆けて眺めているうちに、それらを宙へと送り出したのが自分だということを時々、忘れてしまいそうになった。
様子を見に来ていた叔父からそんな言葉をかけられて、私は少しばかりつまらない顔をしてしまった。
どうせ先輩は叔父たちに気を配って立ち回っていたことだろう。
人付き合いに慣れている先輩だから務まったことに決まっている。
何事にも不器用で、口下手な私が、大人ばかりの環境に放り込まれたら、ストレスで胃に穴を開けるはずだ。
「それほど面識がないから、大学でも……」
目にかかる邪魔な前髪を頭頂部で結びながら、不貞腐れたような口調で答える。
こんなふてぶてしい態度ができるのも、身内が相手だからであった。
実際、叔父も大して気にする様子もなく、もう慣れましたとばかりに曖昧な笑顔を浮かべていた。
「まぁ、見た目からしても一姫とあまり関わりなさそうな人ではあるけれど。こちらとしては是非、卒業後はうちに!って感じだったよ」
無責任なことを言いながら、叔父は私に洒落た紙袋を渡してきた。
「どうせ要らないって言うだろうけれど、向こうのお酒ね。一姫が呑まなくても、誰かしら呑む人いるだろう」
まるでクリスマスのような、緑と赤の配色で施されたラッピングに、私は頬が引き攣った。
高級と言うことを包み隠そうともしない成金らしい物品だ。
こんな物を大学1年の私が一体誰に渡せるだろうか。
――天野先輩はそんなに深酒しない人だったっけ……。
9月の初めにあった呑み会にも不参加だったため、先輩たちの呑み事情を把握することができなかった。
もらい手がなければあの運転手のお兄さんにあげてしまおうと思い、一応は紙袋を受け取った。
「お金が足りなくなったらいつでも言えよ。ほしいものがあったら買ってやるし、いくらでも贅沢していいんだからな。折角の大学生活なんだ」
そんな叔父の甘い言葉を受け流し、私は靴を履き替えると練習場の真ん中へと歩いて行った。
どれだけ高く放ってもピンがぶつかる心配のない高い天井を見上げる。
そこには星座早見盤のイラストが描かれていて、夜に電気を消すと星が浮かび上がるようになっていた。
この絵が完成した時、私はまだ地元で高校生をしていたが、叔父がメールで写真を送って来て、しつこく感想を聞いてきたことは未だによく覚えている。
特に星に興味があるわけでもなく、アートへの理解も乏しい私は、特別感想という感想もなく、返事をしなかった。
それでも、また別の何かににピントを絞った時、ぼんやりと頭上に浮かぶ星空は、綺麗に思えることもあった。
――私以外の誰かもこの空を見上げることがあるのかな。
頭上に自分で投げたピンは、星空へ届く訳でもなく、また私の手元へと戻って来た。
何がしたいという訳でもないけれど、今自分がやるべきことはこれなのだろうか、とふと思った。
居ても立ってもいられない時に、それでも具体的な欲望が湧きあがらない。
高校生の時からそれに類似した苛立ちが私の中にはあった。
一体自分は何がしたくて、何をされたら満足なのだろう。
ボランティアツアーにも参加せず、お酒をもらっても素直に喜ぶことができず、叔父からの配慮にも大した感謝をできず。
可愛げがないということも、これでは駄目だということも、本当はとっくに分かっている。
それでも、今私は誰かから特別に好かれたいという気持ちがなかった。
だって、私がどれだけ頑張ったって、周りが私を認めてくれるはずがないのだから。
期待をするだけ無駄なのだ。
星空の下、複数のピンが舞う。
呆けて眺めているうちに、それらを宙へと送り出したのが自分だということを時々、忘れてしまいそうになった。