かまってくれてもいいですよ?
「飯、もう食べたの?」
急に頭上から降ってきた声に、私は思わず跳ね上がった。
弾みで、握っていた携帯を床に落としてしまい、慌てて座ったまま手を伸ばしたが、私より先に大きく骨ばった手が届いていた。
机の上に携帯を置いて、櫻田先輩は小さく溜息をついた。
「その反応、どう受け取ればいい?」
不機嫌混じりに睨まれてしまい、私は縮こまりそうになった。
先輩が旅へ出てしまってしばらくが経過したはずだけれど、久しぶりに見ても、迫力は一切衰えていなかった。
「お久しぶりです……!」
上ずった声で私が挨拶をすると、先輩は苦く顔を顰めたものの「そうだね」と小さく呟いた。
「美雲さん、まだダイエット続けてるの?」
まだ、の部分が若干馬鹿にしたような言い方に聞こえたのは、恐らく気のせいではないのだろう。
「大して成果あるようには見えないし、やめれば」
真顔のまま、声色も大して変えないまま、先輩が言う。
正面から目を見て話すところは、出会った時からまったく変わっていない。
最初の頃は視線を外しがちだった私の方が、目を合わせて話せるように成長した。
「これでも夏休みの間に4キロ落とせたんです」
私が負けじと不機嫌な返しをすると、先輩は眉根を顰めた。
「食っても食わなくてもデフォルトがガリガリなんだから変わらねーだろ」
少し荒げられた声に、私はまた縮こまった。
出会った頃はいつも、先輩のこの調子に怯えていた。
けれど、半年もすれば、先輩は怒っていても怒っていなくてもこの調子なのだということが分かるようになった。
私が笑顔を求めればたまに笑ってくれるけれど、それ以外の時はどことなく柄が悪い。
「大体、お前は貧相すぎるんだよ」
「それは先輩の主観じゃないですか!先輩がグラマラスな女性が好きなだけじゃん!」
私の反論に、先輩は一瞬だけ目を丸くして、それから後頭部をガシガシと掻いた。
「まぁそれはそうかもしれない……」
そう低い声で言うと、彼は向かいの席に座ろうとせずに、私の足もとに座り込んだ。
「夏休み中は元気だった?ちゃんと食ってた?」
少しだけ潜めた声で言われ、私は首を縦に振った。
「暇すぎて、元気を持て余してました」
「そっか。可愛くねぇのな、本当」
呟いてから、先輩は思い出したようにもう1度顔を上げた。
「そう言えばさァ、民俗学のメンツで1度飯行こうって話出てるんだけど、美雲さんも来る?」
民俗学、と言う隔年でしか開講されないほど小規模な講義は、現在1年生が私1人しかいない。
2年生と4年生は1人も受講しておらず、3年生が4人いる程度だった。
櫻田先輩は誰かと誘い合って受講したわけではないらしく、いつも前の方に1人で座っていたし、他の3年生とは授業の時間内でしか話しているところを見られない。
普段はそこまで仲が良くないけれど、後輩の手前話しているのだと、他の3年の先輩方が言っていた。
「いえ、3年だけで楽しんできてください」
いつも通り断ろうとすると、間髪入れずに「あ?」と凄まれた。
「来いよ」
そう、一言だけ言われた。
「そうでもしないと飯食わないんだろどうせ、お前は」
「私にとって食事はそこまでの楽しみじゃないんです」
すかさず言い返したところ、「黙れ」と一蹴されてしまった。
「じゃあ、今週の金曜だから、空けとけよ」
先輩の言葉に、私は「え?」と聞き返す。
「金曜は、天野先輩に誘われていないんですか?」
櫻田先輩は、ただでさえ多い眉根の皺を更に増やしてから、「誘われたよ」と言う。
「でも、誘われたからって行く必要もないし。どうせ美雲さんだって行く気なかったでしょ?」
ご尤もなことを言うと、先輩は立ち上がり、「じゃ」と短く挨拶をして行ってしまった。
急に頭上から降ってきた声に、私は思わず跳ね上がった。
弾みで、握っていた携帯を床に落としてしまい、慌てて座ったまま手を伸ばしたが、私より先に大きく骨ばった手が届いていた。
机の上に携帯を置いて、櫻田先輩は小さく溜息をついた。
「その反応、どう受け取ればいい?」
不機嫌混じりに睨まれてしまい、私は縮こまりそうになった。
先輩が旅へ出てしまってしばらくが経過したはずだけれど、久しぶりに見ても、迫力は一切衰えていなかった。
「お久しぶりです……!」
上ずった声で私が挨拶をすると、先輩は苦く顔を顰めたものの「そうだね」と小さく呟いた。
「美雲さん、まだダイエット続けてるの?」
まだ、の部分が若干馬鹿にしたような言い方に聞こえたのは、恐らく気のせいではないのだろう。
「大して成果あるようには見えないし、やめれば」
真顔のまま、声色も大して変えないまま、先輩が言う。
正面から目を見て話すところは、出会った時からまったく変わっていない。
最初の頃は視線を外しがちだった私の方が、目を合わせて話せるように成長した。
「これでも夏休みの間に4キロ落とせたんです」
私が負けじと不機嫌な返しをすると、先輩は眉根を顰めた。
「食っても食わなくてもデフォルトがガリガリなんだから変わらねーだろ」
少し荒げられた声に、私はまた縮こまった。
出会った頃はいつも、先輩のこの調子に怯えていた。
けれど、半年もすれば、先輩は怒っていても怒っていなくてもこの調子なのだということが分かるようになった。
私が笑顔を求めればたまに笑ってくれるけれど、それ以外の時はどことなく柄が悪い。
「大体、お前は貧相すぎるんだよ」
「それは先輩の主観じゃないですか!先輩がグラマラスな女性が好きなだけじゃん!」
私の反論に、先輩は一瞬だけ目を丸くして、それから後頭部をガシガシと掻いた。
「まぁそれはそうかもしれない……」
そう低い声で言うと、彼は向かいの席に座ろうとせずに、私の足もとに座り込んだ。
「夏休み中は元気だった?ちゃんと食ってた?」
少しだけ潜めた声で言われ、私は首を縦に振った。
「暇すぎて、元気を持て余してました」
「そっか。可愛くねぇのな、本当」
呟いてから、先輩は思い出したようにもう1度顔を上げた。
「そう言えばさァ、民俗学のメンツで1度飯行こうって話出てるんだけど、美雲さんも来る?」
民俗学、と言う隔年でしか開講されないほど小規模な講義は、現在1年生が私1人しかいない。
2年生と4年生は1人も受講しておらず、3年生が4人いる程度だった。
櫻田先輩は誰かと誘い合って受講したわけではないらしく、いつも前の方に1人で座っていたし、他の3年生とは授業の時間内でしか話しているところを見られない。
普段はそこまで仲が良くないけれど、後輩の手前話しているのだと、他の3年の先輩方が言っていた。
「いえ、3年だけで楽しんできてください」
いつも通り断ろうとすると、間髪入れずに「あ?」と凄まれた。
「来いよ」
そう、一言だけ言われた。
「そうでもしないと飯食わないんだろどうせ、お前は」
「私にとって食事はそこまでの楽しみじゃないんです」
すかさず言い返したところ、「黙れ」と一蹴されてしまった。
「じゃあ、今週の金曜だから、空けとけよ」
先輩の言葉に、私は「え?」と聞き返す。
「金曜は、天野先輩に誘われていないんですか?」
櫻田先輩は、ただでさえ多い眉根の皺を更に増やしてから、「誘われたよ」と言う。
「でも、誘われたからって行く必要もないし。どうせ美雲さんだって行く気なかったでしょ?」
ご尤もなことを言うと、先輩は立ち上がり、「じゃ」と短く挨拶をして行ってしまった。