かまってくれてもいいですよ?
大学へと歩いて通うのは、入学式以来かもしれない…、とふと思った。
徒歩でも5分程度でつく距離だけれど、それでも移動時間は最短に収めたいという気持ちで、いつも自転車を利用していた。
見慣れた通学路に、見過ごしていた部分なんて何一つなくて、ただただ退屈な風景だった。
たった5分歩いたくらいで痩せられるとは思わないけれど、それでも何か始めなくては気が済まなかった。
明日はもう金曜日だった。
今日中に櫻田先輩か天野先輩に返事をしなくてはならない。
どちらをとればいいのか、どちらもとらなければいいのか、ただ悶々と考えながら、私は歩調を速めた。
気が進まないのは、天野先輩から誘われた呑み会だ。
大人数の上に何の面識もない人が大半だ。
それに比べれば、櫻田先輩の方は、私自身が関わっている講義の集まりなのだから、行ったとしても私が気を遣う必要はないのかもしれない。
そんなことを考えながら、私は民俗学の行われる教室へと向かった。
「美雲さん、おはよう」
同じ講義を取っている3年の先輩方が、追い抜きざまに声を掛けてくれる。
その全員が男性で、それも屈強な身体つきの人ばかりだったため、私は咄嗟に声が出ず、深く会釈をした。
「櫻田が誘ったと思うけれど、明日、予定大丈夫?」
その中の1人が足を止めると、他の先輩方も足を止めた。
「お誘いは頂いたけれど……」
「予定入っちゃってた?」
「って訳でもないけれど、私……」
どう言おうかと私が視線を泳がせていると、視界の隅に櫻田先輩が映った。
彼は私に気付くと目だけ軽く動かして会釈代わりとし、こちらに向かって来た。
「俺が誘ったんだから断らないでしょ?」
意地の悪い笑顔で、櫻田先輩は言いきった。
確かに他の先輩方からの誘いであればいつも通り誤魔化して逃げることができたけれど、これからも交流が期待できる櫻田先輩に対してそんな失礼なことをする度胸が私にはなかった。
「場所は池袋。7時から予約してあるから、間に合うように来て」と言い掛けて、櫻田先輩は思い出したように私を見下ろした。
「そう言えば、東京の子じゃなかったんだっけ」
「えぇ、まぁ」と私が頷くと、3年の先輩達は顔を見合わせた。
「池袋への行き方って分かる?」
櫻田先輩の笑顔が早くも引き攣り始め、いつも通りの表情に戻りかけていた。
何となく不味い空気を察しながら、私も笑顔を取り繕って、「分かりません」と正直に答えた。
「男だったら殴ってたぞコレ」、櫻田先輩がボソッと呟いてから、携帯を取り出した。
カレンダーを確認して、彼は私と画面を交互に見比べた。
「俺、明日、講義終わるの結構遅いんだけど、それまで校内で待っていられる?」
「いや、自分行き方分からないし不参加で大丈夫ですよ!」
あくまで謙虚に断ろうと思ったけれど、容赦なく額を指で弾かれてしまった。
ムダに力の入ったデコピンに悶絶しそうになりながらも、私はすぐに櫻田先輩を見上げ直す。
「だーかーら、行き方分からないだろうから一緒に行こうって言ってるんだよ」
少しばかり苛立ったように言われ、私は縮こまりながら、「ありがとうございます」と不貞腐れたように答えるしかなかった。
徒歩でも5分程度でつく距離だけれど、それでも移動時間は最短に収めたいという気持ちで、いつも自転車を利用していた。
見慣れた通学路に、見過ごしていた部分なんて何一つなくて、ただただ退屈な風景だった。
たった5分歩いたくらいで痩せられるとは思わないけれど、それでも何か始めなくては気が済まなかった。
明日はもう金曜日だった。
今日中に櫻田先輩か天野先輩に返事をしなくてはならない。
どちらをとればいいのか、どちらもとらなければいいのか、ただ悶々と考えながら、私は歩調を速めた。
気が進まないのは、天野先輩から誘われた呑み会だ。
大人数の上に何の面識もない人が大半だ。
それに比べれば、櫻田先輩の方は、私自身が関わっている講義の集まりなのだから、行ったとしても私が気を遣う必要はないのかもしれない。
そんなことを考えながら、私は民俗学の行われる教室へと向かった。
「美雲さん、おはよう」
同じ講義を取っている3年の先輩方が、追い抜きざまに声を掛けてくれる。
その全員が男性で、それも屈強な身体つきの人ばかりだったため、私は咄嗟に声が出ず、深く会釈をした。
「櫻田が誘ったと思うけれど、明日、予定大丈夫?」
その中の1人が足を止めると、他の先輩方も足を止めた。
「お誘いは頂いたけれど……」
「予定入っちゃってた?」
「って訳でもないけれど、私……」
どう言おうかと私が視線を泳がせていると、視界の隅に櫻田先輩が映った。
彼は私に気付くと目だけ軽く動かして会釈代わりとし、こちらに向かって来た。
「俺が誘ったんだから断らないでしょ?」
意地の悪い笑顔で、櫻田先輩は言いきった。
確かに他の先輩方からの誘いであればいつも通り誤魔化して逃げることができたけれど、これからも交流が期待できる櫻田先輩に対してそんな失礼なことをする度胸が私にはなかった。
「場所は池袋。7時から予約してあるから、間に合うように来て」と言い掛けて、櫻田先輩は思い出したように私を見下ろした。
「そう言えば、東京の子じゃなかったんだっけ」
「えぇ、まぁ」と私が頷くと、3年の先輩達は顔を見合わせた。
「池袋への行き方って分かる?」
櫻田先輩の笑顔が早くも引き攣り始め、いつも通りの表情に戻りかけていた。
何となく不味い空気を察しながら、私も笑顔を取り繕って、「分かりません」と正直に答えた。
「男だったら殴ってたぞコレ」、櫻田先輩がボソッと呟いてから、携帯を取り出した。
カレンダーを確認して、彼は私と画面を交互に見比べた。
「俺、明日、講義終わるの結構遅いんだけど、それまで校内で待っていられる?」
「いや、自分行き方分からないし不参加で大丈夫ですよ!」
あくまで謙虚に断ろうと思ったけれど、容赦なく額を指で弾かれてしまった。
ムダに力の入ったデコピンに悶絶しそうになりながらも、私はすぐに櫻田先輩を見上げ直す。
「だーかーら、行き方分からないだろうから一緒に行こうって言ってるんだよ」
少しばかり苛立ったように言われ、私は縮こまりながら、「ありがとうございます」と不貞腐れたように答えるしかなかった。