かまってくれてもいいですよ?
「インドだったっけ?」

「モンゴルですよ」

自分もインドとモンゴルが地球のどの位置にあるのかすぐに思い出すことはできなかったものの、先輩の言葉に正解を被せた。

「北方の二カ国にボランティアで飛んで、研修が済んでから個人旅行としてモンゴルへ行ったって、叔父に聞きましたけれど…」

「北方のボランティアって、何をするの?」

「なんか、事故あったじゃないですかァ。なんか、アレの……」

自分も曖昧にしか覚えていなかったし、何より場所すらもうろ覚えであったため、正確な説明はできなかった。

今私が説明できなかったとしても、先輩は後で本人に直接聞くのだろう。

私は適当なところでお茶を濁すことにした。

「で、モンゴルは?」

「それは先輩の趣味なんじゃないですか? なんか、観光的な?」

すべてが憶測だった。

私自身はそこまで櫻田先輩と深い付き合いをしていない。

後輩として、先輩に気に掛けていただけている部分は確かにあるものの、だからと言って彼からプライベートの話までしてもらえる程の関係にはなかった。

それでも、彼が私の叔父の企画したボランティアツアーに参加するということを、叔父の方から聞かされて、私までも誘いを受けた。

海外に行くだけでも精一杯なのに向こうでも働くだなんて、とても体力が持ちそうになかった私は、簡素な断りを入れてしまったけれど。

先輩は向こうで精力的に手伝いをしていたと、後で叔父から聞いた。

上京してきてから、友人を作ることができず暇を持て余していた。

そんな時に叔父から親戚が管理している体育館のパスを渡された。

交通網がいまいち通っていない場所に建てられた体育館は、吹き抜けになっていて、天井がやけに高かった。

大きなマットやエアロビクスで使うようなボール、見慣れないデザインの一輪車や竹馬。

そして、ずっしりと重いジャグリング用のピン。

様々な道具が揃ったそこで、私はジャグリングを練習することに決めた。

そのほんの少し前に、どうしてもこれを練習したいと思うような出来事があったからだ。

その練習場に、私とは違う曜日で同じ大学の上級生数名が通っていると知ったのは、初夏だった。

その上級生が誰であるか知ってからも、私は学内で自分から関わろうとは思わなかったし、向こうは特に知らされていないのか、今まで通りの接し方しかしてこなかった。

長らく黙っていたせいあって、今さら「関係者」と言うのも恥ずかしくなってしまっていた。

今のところ、このことを知っているのは天野先輩だけである。

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