彼と私と元カレ
「小澤も、消した方がいい…」
「え…?消す?」
楠木は理沙に、自分の携帯画面を見せる。
そこには、アドレス帳の中に"小澤理沙"の名前はなくなっていた。
「先輩…」
「な?」
理沙は眉を下げて携帯を出し、アドレス帳の中の"楠木先輩"の名前の所で削除を選び、そっと押した。
「……押しました」
「よし、それでいい…」
「先輩…」
「あっ、言っとくけど、野球部はスゲー楽しかったから、そういう思い出は消さないからっ、小澤との思い出も…」
「……はい、私も大切な思い出です」
「うん…なら良かった」
「はい…」
「じゃぁ…そろそろお昼終わるし、行くよ」
「はい」
「じゃぁ…な?」
そう言って楠木が手を挙げたのに対し、理沙も手を挙げ返し、楠木が見えなくなるのを待った。
そして手を下ろす。
これで…いいんだ。
これで…。
先輩、ありがとう。
私の初めて付き合った人……ありがとう。