ゆりかご
スタートラインに立っていたコータローは、またあのキレイなフォームでゴールに向かうーーーそんな姿を想像しながら、あたしはふぅっと息を吐いた。


そうして昇降口まで戻ってきたあたしが見つめるのは……コータローがよく立っていた場所。

「……。」

翔矢のこと、あんなに大好きだったのに……今ではなんとも思わなくなるなんて、これっぽっちも思っていなかった。

キライだった制服も、電車も……コータローがあたしを揺らす度に、少しずつだけど受け入れられるようになっていって、そんなあたしの気持ちも、気がついたら揺れていた。


この学校に入って良かったーーーそう思える自分が、ここにいる。

「…。」

気持ちって、こんな風に変わっていくんだね……コータロー。

あなたが、そう思わせてくれたんだよ。


でもあたしは、もう伝えられないんだ。

”…コータローのこと、好きになれたらいいのにな。”


いつかのあたしの台詞を思い出して、ふと零れそうになる涙。




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