君と私の秘密の恋
「顔をあげてください。そんな風に泣かれたら、責めたくても責められない。泣いて許しを請うなんて、僕は許せません」
その様子を見ていた社長さんが厳しく言い放った。
泣かれてしまったら。
こんな風に泣いて詫びられたら、楓くんの憤りの行き場を失ってしまう。
社長さんはそれが嫌なんだ。
楓くんに、思いのすべてを吐き出してもらいたい。
きっと、そう思っている。
「・・・はい。・・・はい」
女性は顔をあげる。
涙をごしごしと拭うと、立ち上がった。
顔を俯かせ、嗚咽を我慢するように手で口を抑える。
「正直、あなたが母親だと言われても。俺にはよくわからない。俺には、母親の記憶なんてこれっぽっちもないんだから」
「・・・っ、はい」
「でも、あなたが母親だというなら・・・。母親には、言いたいことはたくさんある」
楓くんが、表情を変えず真っ直ぐ女性を見据えて話す。
冷静、そう見えるけど、その拳が固く握られているのを私は知ってる。
感情的になりそうなのを、必死で抑えているんだよね。