狐火 ゆらり
空には望月 ススキ野原
 さわさわと、少し冷たくなった風がススキ野原を吹き抜ける。

 また来てしまった。

 俺は風に少し背を丸め、顔を上げた。
 目の前には朽ちかけた小さな祠がある。

 ふぅ、と息をつくと、俺は祠の扉に手をかけた。
 ぎぃ、と軋む音がし、壊れそうな扉はゆっくりと開いた。

 中は外と変わらぬ粗末さだ。
 まだ背後が闇でないから何となく中が見える程度で、蝋燭が灯っているわけでもない。

 常人であれば考えることなく背を向けるだろうが、俺は抜けそうな床に、躊躇いなく足を踏み出した。
 ぎし、と床が軋み、積もりに積もった砂埃が舞い上がる。

 三歩も歩けば突き当たる奥の祭壇の前に立つ。
 また一つ、俺の口からため息が漏れた。

 手を伸ばし、祭壇の中央の厨子を開ける。
 綺麗な女神像が姿を現した。

「大人しくしてたかい、女神様よ」

 呟くや、女神像の口角が上がった。
 同時に、ぽ、と像の手の宝珠が光る。

 眩しさに目を覆った俺が腕を降ろした一瞬後には、祠は立派な御殿に早変わりしていた。
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