【短編】Love agains
「…親に…、売られるなんて…!…う、唄いたいのに…っ」


 いつも出かけるときに目深にかぶるニット帽子も、なんとなく理解できた。


 ぽろぽろと涙が滑り落ちていく。



「あっちゃん、ごめ…っ」


 我慢ができなくて、言い終わる前に抱きしめていた。

苦しそうに赤く染まった顔も、俺は見ないように腕に力を入れた。



 確か、映画のヒロインに抜擢されると主題歌が歌える特権もついてると、裕一も言っていた。

だからネコもオーディションに参加したんだろう。



けれど親から支援されたのは、娘の夢より自分たちの欲だったんだ。




「それでも、チャンスだろう…?」


 なんとか絞り出した声に、腕の中のネコがピクリと震えた。

ゆっくりと俺の腕から開放してやると、見上げてきた彼女の目の周りは真っ赤だった。


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