やさしい恋のはじめかた
 
「うん。今回の炭酸飲料は、特に10代~20代の若い男の子が多く購入するデータが出てるの。これはメーカーの狙い通りね。今流れてるCMは、購買層になっている年代のタレントの中でも“清楚で可愛くて、こんな後輩や先輩がいたら絶対好きになる”みたいな女優さんがメインで起用されてるんだけど、そこを稲塚くんは例の佐藤くんで推したいとなると、佐藤くんのイメージと少しズレが出てくると思うのよ。主任はたぶん、そこを指摘しているんだと思う」


ビールと牛筋の味噌煮込みを肴にしながら、広げた資料の上で額を突き合わせるようにしてバリバリ仕事の話を展開させていく。


「あー、事務所側はワイルドなイメージで売りたいのに、このCMのシリーズだと、どうしても爽やかな印象が先行してるから……」

「うーん、そこまでじゃないけど、それならいっそ、そんなにまだ知名度のないタレントの中からオーディションで選んでもいいと思うの。話題になって化けるかもしれない」

「主任のあのCMみたいに?」

「んー? そこは嘘でも『主任よりも』って言うところでしょう。稲塚くんはもっとすごいの作れるよ。主任も真っ青、みたいなヤツ」


言うと、稲塚くんがぷはっと吹き出して笑う。

ん?と思っていると。


「ほんと先輩って主任がいないところだと案外厳しいこと言いますよね。主任を越えるのは俺だって目標ですけど、そこまではさすがに言えませんよ。え、実は嫌いとかですか?」
 
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